
報告者:ニヴリタ・ダルグヴァンシ
ルーム・トゥ・リード「リテラシー・ポートフォリオ」アソシエイトディレクター
シリア内戦で母と兄を亡くし、レバノンに難民としてたどり着いた12歳の少年、ハーフィズ(仮名)。当時の彼は、ただ生きることに必死で、教育を受けることなど考えもしませんでした。しかし、ある日、若いボランティアの青年との出会いが彼の運命を変えます。その青年から、レバノン東部バールベック地区にある、ルーム・トゥ・リードが支援する地域コミュニティ組織「ヘルワ・ヤ・バラディ(Helwa Ya Baladi)」が運営する図書館の存在を知らされたのです。
最初はためらいながらも、ハーフィズは図書館を訪れました。シャイで引っ込み思案な彼は、最初のうちは誰にも話しかけることができませんでしたが、時間が経つにつれて、徐々に心を開いていきました。表情は豊かになり、他の子どもたちと仲良く、様々な活動にも積極的に参加するようになったのです。そして今、彼は小学3年生として、読書への強い意欲を見せ、単語の読み方や文字の発音を着実に学んでいます。
「僕はここが大好きで、とても心地いいんだ。この図書館にある本は全部読みたいよ!」
とハーフィズは私たちに話してくれました。彼のお気に入りの本は『ライオンとネズミ』だそうです。
「読書コーナー」の広がり:小さなアイデアが大きなムーブメントに
ルーム・トゥ・リードがレバノンで図書館プロジェクトを開始した当初、私たちには2つの大きな目的がありました。一つは、15の非公式教育センター(Non-formal Education Centres (NFE))に子どもにやさしい読書コーナー型図書館を作ること。もう一つは、100タイトルの児童書を様々なセンターに配布することでした。
最初の15のモデル図書館が完成し、地域でのイベントも開催された後、思いがけない素敵な出来事が起こりました。なんと、新たに5つの非公式教育センター(NFE)が私たちのチームに連絡をくださり、「自分たちも読書コーナーを作りたい」と申し出てくれたのです。これらのセンターは、子どもが安心して過ごせる読書スペースの設置に意欲的に取り組んでおり、書籍や研修に対する支援を求めてきました。
特筆すべきは、各センターが限られた予算の中で素晴らしい工夫を凝らしたことです。段ボールで作った本棚、タイヤから作ったスツール(椅子)、廃布から作ったクッションなど、低コストの材料を活用し、それぞれが独自の魅力にあふれた読書コーナーを創り出しました。これらの読書スペースは、子どもたちが毎日アクセスできるよう、先生たちの指導のもと運営されています。
このような想像を超える熱意に後押しされ、私たちは戦略を見直すことにしました。これまでの「ただの書籍配布」にとどまらず、非公式教育センター(NFE)における読書コーナーの創設を積極的に支援する方向へと舵を切ったのです。これにより、プロジェクトの目標により深く連動する形となりました。
低コストで持続可能なモデルの確立
私たちは、最小限の資源で低コストな読書コーナーを設置するためのシンプルな手順書を作成しました。この手順書には、日常の素材を使って本棚やクッション、スツール(椅子)を自作するDIYのアイデアも盛り込まれています。
この手順書に沿って、ルーム・トゥ・リードは2つの動画を制作しました。一つは、子どもに優しい図書館を視覚的に紹介するバーチャルツアーを提供するもの。もう一つは、教育者たちを支援する読書活動の実演動画です。これらの動画教材は、書籍とともに各センターに提供され、定期的に実施支援のためのフォローアップも行われています。
その反応は驚くほど前向きなものでした。全140の非公式教育センター(NFE)のうち、約125のセンターが自らの読書コーナーを設置したのです。子どもたちの喜びあふれる写真が、次々と私たちのもとに届きました。さらに各センターからの要望を受けて、私たちは図書館運営に関する公式研修を2度実施しました。
現在、これらの読書コーナーは、レバノン全土で69,000人を超える子どもたちに届いています。わずか15のモデル図書館から始まったこの取り組みは、すべての子どもの手の届く場所に、本と喜び、そして学びを届ける、強力で低コストなモデルとして、レバノン国内中に読書愛を育むムーブメントへと発展しています。
原文URL:https://www.roomtoread.org/the-latest/from-loss-to-literacy/
翻訳:榎本 晋作
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