エリン・ガンジュ来日講演 「教室が変われば世界が変わる」

2017 年 11 月 9 日(木)、ルーム・トゥ・リードの共同創設者兼 CEO のエリン・ガンジュ が、東京都内で講演し、開発途上国に暮らす読み書きができない子どもたち、教育を受けられない少女らの現状、ルーム・トゥ・リードの教育支援プログラム、そして大きな成果を生み出す組織運営について語りました。「女子教育プログラムを受けた生徒のひとりが将来、首相や 大統領になるのではないか」。その力強い言葉は、出席した 80 名のサポーターの心に響きました。(文:大西元博)

Room to Read
「教育は酸素みたいなもの」
私はジョン・ウッド(創設者)、ディネシュ・シュレスタ(共同創設者)とともに、17 年前 の 2000 年にルーム・トゥ・リードを立ち上げました。設立した理由は世界の大きな問題を解決したかったからです。それは何の問題でしょうか。現実の世界では、成人の7人に 1 人が文字の読み書きができず、そのうち3分の2は女性と少女です。開発途上国の世帯収入が低い家庭の子どもたち、特に少女たちは文字が読めず、教育を受ける機会がありません。また、たとえ学校に行けたとしても十分に学べているとは言えません。なぜなら教育の質がとても低いからです。現在も2億5千万人の子どもが文字の読み書きができず、小学校を途中で退学し、中等教育を受けていない状況です。教育の質をいかにして高めるか、どうすれば世界中のコミュニティにおいて子どもたちが本当に学べる環境をつくれるか。ルーム・トゥ・リードは、そうした 問題を解決するために活動しています。

 識字能力を持つことは基本的人権で、子どもたちは教育を受ける権利があると考えています。 昨年 11 月に、カンボジアで、ルーム・トゥ・リードの女子教育プログラムの支援を受けているチータという少女に会ったのですが、彼女は、「教育は私たちにとって酸素みたいなもの」 と言っていました。つまり、教育は人生を成功させるために必要なものなのです。教育を受ければ、子どもたちの将来はよりよくなります。

私たちは大きなスケールで、持続性があり、根拠にもどづいた、かつ、コスト効率の高い組 織を目指してきました。そして、今夜、皆さんに、初等教育の子どもたちに教育の機会を与え、女子教育をサポートする活動をどのようにしているか伝えたいと思っています。

ルーム・トゥ・リードがスタートした 2000 年に、私たちは 2020 年までに 1 千万人の子どもに教育の機会を与えるという大胆なゴールを設定しましたが、5年前倒しで達成できました。 なぜ、短い期間にそれだけの実績を上げられたのか、多くの方たちに質問されます。その理由であるルーム・トゥ・リードのプログラムや組織運営について説明したいと思います。

 

Room to Read

まずは最初にプログラムについてお話させていただきます。私たちは初等教育と女子教育の 2つの重要なエリアで活動しています。
子どもたちにとって、最も重要なのは初等教育の時期です。2億5千万人の子どもが文字の読み書きができず、少女たちは学校に行っても小学6年生で退学し、5人に1人しか中等教育に進めない状況です。そこで、ルーム・トゥ・リードでは、少女らが学校に留まることができるようにサポートしています。
初等教育で何をしているのかと言いますと、読み書きを学ぶ機会を提供するとともに、生涯 を通じて学ぶ姿勢を身につけるために読書習慣を育んでいます。
車の運転は高速道路や狭い道など様々なパターンで運転しなければスキルはつきません。同じように読書でも、小説だったりノンフィクションだったり違う種類の本をたくさん読むことで、スキルがついてきます。そこで私たちは、子どもたちが読書に親しめるように図書室を整備しています。

「地域コミュニティを巻き込んだ活動」
識字教育では、3つの必要な要素があります。

 1つ目は教師の力です。本当に重要ですが、貧しい国では教師は政府からのサポートをほとんど受けられていません。たった数カ月のトレーニングを受けただけで、いきなり70 人から 80 人の生徒がいるクラスに放り込まれます。20 年も 30 年も教師がサポートもトレーニングも受けられず教え続けなくてはならない状況では、子どもたちが途中で学校に来なくなってしまうのも無理はありません。
ルーム・トゥ・リードでは、教師の皆さんに1年間に8日から10日のトレーニングを必ず受けてもらっています。ルーム・トゥ・リードには世界各地に 1500 人のスタッフがいますが、9割が現地(支援国)でその国の出身者を採用しています。現地スタッフが教師とともに活動することで、教えるスキルの向上をはかっています。

 2つ目は教材です。ルーム・トゥ・リードは独自のフラッシュカードやポスターカード、ドリルなどを開発し、先生たちはそれらを使って、一生懸命に子どもたちに読み書きを教えています。

 3つ目は図書室です。図書室の内装は子どもたちが学びやすいようにカラフルで明るい色にしています。また、地元の作家やイラストレーターを教育し、これまで 1800 万冊の現地語で書かれた本を出版し、子どもたちが読んでいます。地元に図書室があることで子どもたちは読書の楽しさを覚え、ますます本を読むようになります。

 

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私たちはルーム・トゥ・リードが支援している子どもたちの学習効果を測定しています。例えば、上の表は、1分間に何字読めるか、ルーム・トゥ・リードのプログラムが入っている学校の子どもたちと、プログラムが入っていない学校の子どもたちを比較したデータです。黄色い線がルーム・トゥ・リードが支援している学校の子どもたち、点線が支援をしていない学校の子どもたちです。小学校1年生、2年生の終わりに測定を行っていますが、どの国でも、2 年生の終わりにはルーム・トゥ・リードが支援している学校の子どもたちのほうが、はるかに多く読むことができます。
1分間に何単語を読めるかはとても大事なことで、90 カ国で実施されている初等教育の読書能力テストでは、1分間に 45 字読めれば、その子どもは内容を理解していると判定されます。ところが、途上国の学校では、10 字から 15 字しか読めない教育をしています。ルーム・ トゥ・リードが支援している学校の子ども達は、例えば、ヒンディー語では 52 単語、ラオ語では 28 単語読むことができます。人はあまりゆっくり文章を読むと理解できない脳の仕組みになっています。それは子どもも同じで、自分のレベルに応じた速さで読まないといらいらしてしまい、やる気を失います。
ルーム・トゥ・リードでは、プログラムの学習効果についてのデータを細かく収集し、効果測定を行っています。興味がある方はお問合わせください。

これらの要素以外にも、教育支援では、地域社会とのかかわりが非常に重要です。スリランカでは、小学校の校長先生が、両親に教育の重要性を伝えるなど、地域のコミュニティを巻き込んで活動を行っています。
たとえば、こんな取り組みを提唱しています。誕生日のお祝いに子どもたちはお菓子を買って持ち寄りますが、お菓子はやめて、そのお金を集めて本を買いましょうと提案したのです。 小さな話かもしれませんが、コミュニティを巻き込んだ良い例です。このようなクリエイティブなアイデアが各地で生まれています。

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「人生や地域を変えるライフスキル教育」
続いて女子教育プログラムについてお話します。小学校に通って読み書きができるようになり、生涯を通じて学習できる力がついても、少女の多くは残念ながら中等教育には進めません。私たちは少女が 12 年生(高校卒業)まで学習を続けられることに焦点を当てて、プログラムを考えています。統計によれば、全世界で 2200 万人の女の子が未就学で、すべての女子が男子と同等に学校生活をおくれるようになるには 100 年はかかると言われています。これは早急に解決しなくてはならない問題です。
発展途上国では、女性の3人に 1 人が 18 歳までに結婚し、子どもを産んでいますが、早婚やリスクの高い低年齢での出産を避けるためにも就学してほしいと考えています。
中等教育を修了すれば、毎年 10%から 15%収入が増え、自分自身の人生や家族、コミュニティをまったく違う世界に導く力が生まれます。
しかし、アジアやアフリカの貧しい地域では、少女らは進学という選択肢を与えられていません。経済的貧困、または宗教などの事情があるのかもしれませんが、私たちは両親やコミュニティに教育の重要性を認識してもらえるように活動をしています。

 

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女子教育プログラムの柱になっているのがライフスキル教育で、途上国のコミュニティの人々に教育の必要性を理解してもらうきっかけにもなっています。ここにいる皆さんは、両親からライフスキルを学んでいますが、貧しい国の子どもの場合、母親も小学3年生から4年生で学校を退学し、読み書きができません。子どもたちはコミュニケーションスキル、リーダー シップスキル、クリティカルシンキング、根気をもつといった生きるための知恵となるライフスキルを教えてくれる人がまわりにいない状況です。そこで私たちは、自信がつき、人生で起きる問題を解決するためのしっかりしたライフスキルがつくようにプログラムを設計しています。
ライフスキルのクラスは週に1回、学校の終了後に課外授業をしています。女子教育プログラムを受けた少女は受けていない少女に比べて退学率は 14%低く、次の学年への進級率は 16%も高いことがわかっています。

ライフスキルを教えるのは、ソーシャルモービライザーと呼ばれる 20 代から 30 代の女性スタッフです。学校を拠点として、ライフスキル教育の他、マン・ツー・マンで少女らの相談にのり、メンタリングもします。
タンザニアでソーシャルモービライザーをしているハピネスは、中学生のアナのメンターです。アナは将来弁護士になりたいという夢を持っているのですが、ハピネスは、彼女が人生の目標に向けて邁進できるようにサポートしています。ソーシャルモービライザーは一人あたり 50 人から 70 人を担当します。
ソーシャルモービライザーの活動はシステム化されています。たとえば、セカンド・レスポンス・プロトコルというシステムがあるのですが、女子生徒が授業を3回続けて休んだり、テストに不合格だったり、ライフスキルの授業に不参加だったりしたときは、家庭を訪問して、何が起きているか確認します。なぜならこうした兆候のある生徒は退学するリスクが高いからです。
 

「一人の少女が貧困の連鎖を断ち切った!」
プログラム開始以来、17 年間にわたりデータを集めていますので、リスク要因が何か把握できています。たとえば、年に2~4回の保護者会を開いていますが、親が保護者会に参加する家庭の子どもは、参加していない家庭の子どもよりも 20%退学率が低いとわかっています。このようなデータをもとに正しい対応をするようにしています。
ひとつ成功した事例についてお伝えします。インドの少女シャブナムは、彼女の村ではじめて8年以上の教育を受け、さらには 12 年の課程を修了し、国立大学に入学。現在はエンジニアの勉強をしています。
彼女がこれまでの大きな壁を壊して、ロールモデルとなったことで、村の人々の意識も変わり、今では子どもたちを 12 年間学校に通わせるようになりました。貧困の連鎖が断ち切られたのです。

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ライフスキル教育は、実際に日常生活で使えるスキルが中心です。ファイナンシャルリテラシーや大学に入学するための経済的問題の解決法など、いろいろなスキルを学べるようプログラムを設計し、学年別にプログラムを用意しています。
ライフスキルの効果をどのように客観的に測るかはひとつの課題ですが、もちろん簡単ではありません。時間管理のワークショップに参加して、自分自身は管理ができるようになったと感じていても、客観的には証明できないのと同じです。そこで、ルーム・トゥ・リードでは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、アトラシアンなど、様々な方から支援をいただいて、プログラムの「効果」についての測定も行っています。
現在、インドの 119 校からランダムに抽出した 2500 人の少女をサンプルとして、忍耐力の改善などを3年間にわたり評価しています。調査方法は、たとえば、村中を回って誰かに帽子を借りて、学校に戻るという課題を与え、交渉力を試します。こうしたアクティビティを通したテストもしています。2018 年には、評価結果をリリースする予定です。

一方で、ライフスキルが少女の人生にどのようなインパクトを与えているかも計測しています。私たちの女子教育プログラムを受けている生徒の退学率は6%と、きわめて低くなっています。そして卒業後は7割が大学や職業訓練校に進学しています。米国でも大学など高等教育への進学率は 68%なので、とても高い数値だとわかります。
ルーム・トゥ・リードの女子教育プログラムで支援を受けた少女が、将来、首相や大統領になる日が来るのではないかと思っています。

「教室が変われば世界が変わる」
次はビジネス組織をどのように作っているかをお話します。ルーム・トゥ・リードは地元のリーダーシップにこだわっています。南アフリカでもネパールでも、訪れた誰もが現地スタッフの情熱や勤勉さに驚かされています。いずれの国のスタッフもその国でどのようにすれば、物事を進められるか熟知し、政府やコミュニティと協力しながら活動しています。ルーム・トゥ・リードは、公立学校を対象に、4年間にわたりサポートし、将来は自立してプログラムが実践できるよう支援しています。
また、こうしたビジネスにおいては、結果を大切にしています。一緒に活動を行う政府やコミュニティには実績や数値をしっかりと示し、共感を得ることで、さらなるサポートにつなげています。
また、お金の使い方にもこだわっています。寄付金の8割以上は直接、プログラムに提供されています。なぜ、それができるのか?  それは2万におよぶコミュニティと一緒に活動することで、効率的に事業を進めながら規模を拡大しているからです。
現地に訪問をすると、地元の子どもたちが温かく迎えてくれます。皆さんにも、そうした機 会をぜひもっていただきたいと思っています。

最後に、私たちに温かい支援をくださっている日本の皆さんに心から御礼を申し上げたいと思っています。日本は私たちにとって重要な国です。これまでも、たくさんのご支援をいただいています。これからも皆さんと一緒にルーム・トゥ・リードを広げていきたいと思っています。

現在、日本発で、 アクション・フォー・エデュケーション という寄付キャンペーンを行っています。 インド、カンボジア、南アフリカの小学校の識字教育の支援を目的としており、12月 25 日まで開催されています。
寄付の仕方も様々です。誕生パーティーを開いたり、特技を披露したりして寄付を集めるのもいいと思います。誰でも参加できますので、ぜひ参加して、アクションを起こしてください!  そして、ルーム・トゥ・リードの日本での認知を高めていただいて、同僚や友人の方に支援の方法を伝えてください。
もし、あなたが学校の教室を変えることができれば、コミュニティを変えることができ、そして一定のコミュニティを変えることができれば、世界を変えることができます。

本日は本当にありがとうございました。
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