プロフェッショナルコーチ松本秀幸「学びと成長の循環をめざして」(Action for Education – 世界を変えるアクションを起こす Vol.4)

ルーム・トゥ・リード・ジャパンでは、小学校3校の子どもたちがより良い教育が受けられるよう寄付キャンペーン「Action for Education(アクション フォーエデュケーション)」を展開中です!

「Action for Education」には、より多くの方に、何か自分ができる行動を起こしてもらい、日本から教育を届ける参加型ムーブメントをつくりたいという思いを込めています。実際に行動を起こしてくださっている方々にインタビューをさせていただき、シリーズでご紹介させていただきます。

第4回目は、長年ルーム・トゥ・リードを支援してくださっていて、「Action for Education」でも大活躍中の松本秀幸さんからお話を伺いました。
(聞き手:ルーム・トゥ・リード・ジャパン 事務局長 松丸佳穂、文:遠藤みどり、取材協力:村橋美香)

Room to Read Action for Education
松本秀幸さん(左)とルーム・トゥ・リード創設者ジョン・ウッド


■プロフィール
松本秀幸さん

広島県呉市出身。日本航空(JAL)に整備員として入社後、22年間航空機の自動操縦装置の整備、航空機部品の補給計画、ITシステムの仕事に従事する。20代の2年間に会社を休職し青年海外協力隊員としてモロッコ王国で活動し「貧困のサイクル」という大きな課題に出会う。2010年JAL在職中に『iPhone英語勉強法」シリーズ(日本実業出版社)出版し、「スマホで英語学習」の専門家として活躍を始める。2012年に英語学習コーチとして独立し、セミナー講師をする傍ら、経営者・医療関係者・ビジネスパーソンの「人生を豊かにする英語力の向上」をサポートしている。

著書:『スマホ3分英語学習法』(秀和システム)、『iPhone英語勉強法」シリーズ(日本実業出版社)、『英語は図で考えなさい』(フォレスト出版)等多数。
TOEIC(R) L&R Test 990点(満点)、英検1級、仏検準1級、中検2級

ルーム・トゥ・リードとの出会い

――松本秀幸さんは、2008年、まだルーム・トゥ・リードが日本ではボランティアだけで運営していたころからサポートをしていただいています。そのときはまだJALで働いていらしたと記憶していますが、どういう経緯でルーム・トゥ・リードを知ってくださったのですか。

松本秀幸さん:直接知ったのは、朝日新聞に載っていたジョン・ウッドさんの記事です。それに何かピンとくるものがあった。実は、さらにその10年前、1995年から97年の2年間、26歳から28歳のときに、JALを休職して青年海外協力隊でモロッコにボランティアに行ったんですよ。そのときに途上国の貧困のサイクル――学ぶ機会がない子どもたちが、また学ぶ機会がない子どもたちの親になるというのを目の当たりにしました。しかし当然、一ボランティアだった自分には何もできなかった。そういう失望感というか無力感を心に秘めて戻ってきたということがありました。

――ジョンの記事をお読みになって、何が一番心に響いたのですか?

松本さん:記事をきっかけに彼の本を読んで、自分で大きなビジョンを立てる必要はないということが分かったんです。例えば、ルーム・トゥ・リードでは「2020年までに1500万人の子どもたちに教育を」という大きなビジョンがありますが、そういうことはとても自分では考えもつかない。でも、そのためにわざわざ会社を辞めなくていいんだよと記事に明確に書いてあって、そこがすごく良かったんですね。会社を辞めなくてもチームに入ってお手伝いをすればいい。大きな貧困サイクルに対して、自分がどれくらいやれるのかと考えなくても、それをやっているところへ参加することもできるというのが、大きな気づきでした。それで翻訳が一番やりやすいかなと思って、翻訳チームに入りました。

複数の路線を持つ

――ボランティアをやろうと思っても、実際に参加するのは勇気がいると思うんですよね。秀さんはどういうふうに始められたたんですか。

松本さん: 確か当時メルマガがあったのかな。そこに登録して、サポーターの人が集まるイベントに行って、という感じでした。翻訳から始めたのは、元々英語は嫌いではなかったからです。工業高専時代、英語ができると世界が広がっていくという確信が生まれて、どんどん勉強しました。それで英語業界に入って7年、サラリーマンと2足のわらじをしながらでもある程度のポジションでやれているのは、複数路線を持っているからでしょうね。複数路線を持っていると、それぞれのエリアにいる人たちに対して、その人の知っている以外の世界のものを組み合わせてメッセージを送れるんです。

――一つの軸にもう一つの軸が掛けあわさると、すごくチャンスが広がりますね。

松本さん:そういうことを意識しつづけてきたからだと思いますが、僕の中では、「学び」と「成長」の機会の循環を作ることがテーマなんです。それは貧困のサイクルのひっくり返しでもあります。

――学びと成長を「一緒に」ということですね。ルーム・トゥ・リードも「一緒に」なんですよ。学校を建てたら終わりというのではなく、先生との教育も一緒にやっていくんですね。自分で頑張ることも大事だけれど、自立していってもらうためには、一緒にサポートしてくれる人がいることはすごく大事なことですね。

松本さん:そういうルーム・トゥ・リードの理念や活動は、すごく自分の考え方と繋がる部分があるので、長く続けているんだと思います。

可能性を開いて形にする

――2008年のルーム・トゥ・リードとの出会いの後にも、大きな人生の変化がありましたね。なんとJALを辞めて、しかも東京を離れられた。

松本さん: 2010年1月にJALが経営破綻したんです。僕は整備士採用でリストラ対象外だったので、すぐには辞めず、会社のV字回復を見てから辞めようと決めていました。JALが経営破綻した後の7月に1冊目の本を出したんですが、そのとき、より多くの人に役に立つには、どういう生き方だとメッセージを伝えやすいのか考えて、V字回復を見届けて辞めたほうがいいかなと思ったんです。それで働きながら本を書いたり、コーチングビジネスとかもして、独立の準備をしていました。すると2011年にふと「あ、1年後に辞めるな」という感じがしたんですよね。

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――それは東日本大震災の前ですか?

松本さん:そうです。その後3.11が起こって、先に家族が沖縄に移住して、僕は2012年2月末にJALをやめて沖縄に行きました。沖縄に1年半住んで、ぼくの人生の中ですごく大切だなと思っているのは、2013年に沖縄県の事業で、アジアと日本の高校生たち向けの20日間のプログラムのファシリテーターをやったことです。福岡に引っ越したその後も、2015年にその事業が終わるまでやったんですが、この子たちの可能性を開くのも面白いなって思って。結局、自分のビジネスの本質は、出会った人の可能性を引き出して形にしていくことだと思ったんです。

――全てのお話が繋がってきますね。秀さんの幅が広がるからそういうチャンスが飛び込んでくる。しかもやりたいことと一致していて。

松本さん:学びの機会で循環を作るというのは、自分が学んで、教えたり、サポートしたりで役に立って、さらにまた自分に学びがあるということですね。そういう意味では今回のAction for Educationでのファンドレイジングもそうですけど、何かを提供することによって、さらにより大きな経験が得られる。このサイクルがあることを知らない人がまだ多い気がしますね。

価値と価値のかけ算

――今日のお話の核心に繋がりますが、秀さんがルーム・トゥ・リードに深く関わってくださるようになったのはなぜですか?

松本さん:僕にとってルーム・トゥ・リードは、自分がやりたいと思えるアイディアを一緒にやれる場所なんですね。例えば僕の英語を提供したファンドレイジングで、途上国の子どもたちが識字教育を受けられるようになるといいなと思うけれど、ただ僕が思っていてもできないわけですよ。だから、ルーム・トゥ・リードのしくみと自分の力をかけ合わせて、価値と価値のかけ合わせで、大きな流れを作っていきたいと。それで2015年に寄付月間(12月)にファンドレイジングをやるというプロジェクトが始まったとき、僕は寄付してくださった方に自分のセッションをギフトしようと思いました。最初の年は1口2万円だったかな。2万円寄付すると、4人の子どもたちに識字教育を提供できる。そして寄付してくれた人に僕のセッションをプレゼントする――すると、学びと成長の循環が起こるじゃないですか。

――1年目の寄付額が50万円を超えて、本当に凄かったですよね。

松本さん: 1年目のそういう動きをみて、今度はそういうことをやりたい人を巻き込んでやろうと思っています。もちろん色々な課題もありますが。

――自分だけではなく、やりたいという他の人たちとも一緒にやっていくと。

松本さん:やりたいと思った人をサポートするのが今年の課題です。僕としては、ファンドレイジングの機会というのは、言ってみれば、自分がやりたいと思ったことを実現する機会でした。慈善活動をしようという気持ちだけじゃなくて、自分のやりたいことと方向性があっていると、価値と価値のかけ算になる。

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説得するのではなく

――ファンドレイジングを通してどんな気づきがありましたか?

松本さん:こういう形でファンドレイジングできると分かったので、あとはやり方次第だなと。今は1人でやっているけど、例えば日頃1万円でセッションをやっている人が5千円を寄付する形でやってもいいし、そういう人を増やせたらいいなって思っています。

――チャリティに対して一瞬ためらう方もいるかもしれませんが、そういう人がいたらどうしますか?

松本さん:そう思うのであれば、無理にやらなければいいかなって思います。説得するものではなくて、やりたいと思う人に、こういう方法がありますと言うだけですよね。

――それもルーム・トゥ・リードWAY(ウェイ)と同じです!

松本さん:去年も「講演してくれますか?」と声をかけてみると、やっぱり積極的な人とそうじゃない人がいましたが、興味がある人の場合もセットアップされたらやりますという方が多かったですね。普通の人には入りやすさが必要なのかもしれません。でも何かをやりたい思いがあるなら、日頃それを発信しているはずなので、そういうことをやったという写真や実績があれば、その人のイメージアップにもなります。

――ビジネス的にもメリットがあると。具体的にはどんなことがありましたか?

松本さん:セッションを受けた人が後々コーチングに来てくれることもあります。あとはやっぱり自分が大切にしていることを明確に表現できるので、そうすると、この人はこういう人だという信頼感を持ってもらえるのかもしれませんね。自然と、そこに共感してくれる人だけが来てくれるというメリットもあります。

――そういうメッセージにもなると。それは大事なことですね。私たちもサポーターを募るときもそうなのですが、スタッフが少ないので手取り足取り教えてあげることはできない。自立してやっていける人でないと難しいんですよね。

松本さん:つまり、途上国の子どもたちの教育を支援することは、自立している、あるいは自立しようとしている人しかやれないということですね。自立した人同士の価値のかけ合わせがキーポイントじゃないかと感じています。ルーム・トゥ・リードは、共通のビジョンのもとに、まったく違うバックグラウンドの色んな方がいて、それぞれの才能が集まってかけ算になってすごい価値を生み出していると思います。

アクションを起こすために

――今回のAction for Educationでは、もっと色々な人にアクションを起こしてもらいたい!という思いが強くあります。そこでアクションを起こしたいけれども、どうしたらいいかわからない人に対して、是非アドバイスをいただきたいです。

松本さん:気になったら、やっている人にメッセージを送ったり、聞いてみるといいかもしれないですね。興味があれば質問できるようなところはあるのかな。

――いまは毎月説明会をやったりしていますが、そういう場所を活かしつつも、私たちももう少しそういう受け皿を作らなければいけないと思っています。

松本さん:今回のAction for Educationの特設サイトのように、チャレンジに興味がある人が集まるサイトがあって、どんなチャレンジをやっているのか分かるのはいいですよね。それで、さらに自分にもできると思った人が相談できるようになるといいんじゃないかな。

――まずは聞いてみる。ちょっとそこからアクションを起こしてみると。

松本さん:そうですね。例えば、ルーム・トゥ・リードに聞くのもいいでしょうし、ファンドレイジングに関してだったら、Facebook経由で実際にやっている人に聞いてもらってもいい。実は、僕はそれをやろうと思って、今年の僕の1口3万円のファンドレイジングにセッションを寄付しています。

――秀さんにファンドレイジングについて相談できるセッションなんですね。

松本さん:セッションによってその人の持っているものを洗い出して、より踏み込んだアドバイスができると思う。去年までは、ライフワークや英語についてのセッションでしたが、今年はファンドレイジングをやってみたい方の強みをバッチリ引き出したい。それはビジネスでも使えるんですよ。ファンドレイジングでお金を集められるなら、仕事でもお金を集められます。本当はファンドレイジングのほうが、ハードルが低いんです。多くの人はお金をいただくことに罪悪感がありますよね。でもお金が回っていればいいじゃないですか。

――なるほど、それはすごく素晴らしいメッセージですね。寄付は難しいというイメージがありますが、お金が自分のポケットに入るわけではないので、罪悪感はないかもしれません。

松本秀幸さんのアクションページです。
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人生の評価指標

――本当にいろいろなものを積みあげてきている秀さんですが、最後に、今後のことで何か考えていらっしゃることはありますか。

松本さん:僕が自分で決めているのは、人生の評価指標を自分で決めるってことですね。

――人生の評価指標とは?

松本さん:人生の通信簿みたいなものですけど、例えば死んだときに神様のところに行ったら紙を渡されて、それを開くと数字が書いてあるとします。その数字を何にするか、なんです。僕の場合は、自分に出会ったことによって、可能性が開いた数。だから、僕が死んだあともカウントアップされていくんですよ。それは、沖縄でアジアの子どもたちにファシリテーションしたときに気づいたんです。自分に直接出会った人だけだと、死んだ時点で終わりですが、これから僕と違う地域、時代に生きていく子どもたちの可能性を開いたら、ずっと増えていくわけですよ。

――すごく可能性が広がりますよね。

松本さん:だから、自分が出会った人の可能性を開いた数、それで選択しているんです。ルーム・トゥ・リードの目標は2020年までに1500万人に教育を届けることですよね。その大きなビジョンや流れがあった上でやったほうが、僕の人生の評価指数、人生の通信簿的に数字が大きくなるわけです。

――私自身、この場を一方的な奉仕の場としてではなく、どんどん活用していただきたいと思っています。何かをやってみることによって、自分では想定していなかったことが絶対みえてくると思うんですね。今日は本当にありがとうございました。