ルーム・トゥ・リードの少数民族(マイノリティ)言語での本の出版について

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ルーム・トゥ・リードのQuality Reading Materials(以下:QRM、高品質の読書教材を担当する)チームは、翻訳者の協力を得ながら、平和と平等をテーマにしたブックコレクション(英語)を、モンタニャード・ジャライ族の固有言語であり、ベトナムとカンボジアの少数民族の言語であるジャライ語に翻訳する作業を行ってきました。本コレクションのために「ヤーの裏庭のジャングル(原題:Ya’s Backyard Jungle)」(英語)を執筆した作家のハビガイ・ムロは、モンタニャード族の若い読者がこの本を楽しめるように、ベトナム語に加えてジャライ語にも翻訳したいと考えていました。 

ベトナムの中央高地出身のハビガイ・ムロの両親と母方の祖父母は、1980年代にタイとフィリピンの難民キャンプからノースカロライナに移住してきました。現在、ハビガイ・ムロは、東南アジア以外ではモンタニャード族の人口が最も多いノースカロライナ州グリーンズボロに居住しており、現在は、モンタニャード族の人々の物語を伝える作家として活躍しています。

QRMチームは、「ヤーの裏庭のジャングル」を翻訳した後、世界中のモンタニャードのコミュニティがすべての物語を楽しめるように、平和と平等をテーマにしたブックコレクション(英語)の全巻をジャライ語に翻訳することを決定しました。ジャライ語書籍の全コレクションは、9月にオンライン教育プラットフォームLiteracy Cloud(英語および支援地域での言語のみ)で公開される予定です。 

少数民族の言語で絵本を出版することは、先住民の言語や伝統を次世代に伝えるための重要な役割を担っています。ルーム・トゥ・リードは、地元の作家、イラストレーター、出版社、印刷会社と協力して、コミュニティのニーズに合った品質の高い本を、収益性に関係なく、迅速に展開するための専門性を持っているため、少数民族の言語コミュニティでは、多様性の欠如や高品質な子ども向けの絵本にアクセスできないという問題に取り組むのに最適な組織です。

今回は、少数民族の言語コミュニティで活動してきたルーム・トゥ・リードの識字教育プログラムの職員から、少数民族言語での書籍出版の重要性についてお話させて頂きます。

少数民族の言語で本を出版することは、なぜ重要なのでしょうか?

パトリック・カリー(識字教育プログラム アソシエイト・ディレクター)

多くの少数民族の言語コミュニティでは、子どもが親しみやすい母語での絵本へのアクセスが限られています。そのため、このような地域の子ども達には、理解できて楽しめる本や読み物に触れる機会がほとんどないのが現状です。読書の機会がなければ、子どもたちが基本的な読解力を身につけることはもちろん、読書が好きになったり、読書習慣を育むことは非常に難しいでしょう。さらに問題なのは、子ども達が本を読みたくても、馴染みのない言語で書かれ、自分達の生活を反映していないイラスト、登場人物、設定、出来事などが書かれた本しか手に入らない場合、子ども達にとって初めての読書体験が、読む気をなくすような、退屈なものになってしまうことです。馴染みのない言語で書かれた、馴染みのない登場人物や出来事の本を使って読み方を学ぼうとすることが、どれほど苛立たしいことか想像してみてください。 

ルーム・トゥ・リードは、少数民族の言語で書かれた児童書を出版することで、サプライチェーンの大きなギャップを埋め、少数民族のコミュニティに住む子ども達が、理解できて共感できる楽しい絵本にアクセスする機会を大幅に増やしていきます。最終的には、このようなアクセスの増加は、子ども達が本を読むことを好きになり、その習慣を身につける機会を増やすことにつながります。  

もちろん、ルーム・トゥ・リードは、少数民族の言語で書かれた質の高い読み物の供給を増やすことは、方程式の一面に過ぎないと考えています。ルーム・トゥ・リードは、地域社会が強固な読書文化を構築し、子ども達が親しみやすい絵本への関心を高められるよう、学校や地域社会と密接に連携し、読書祭り、国際識字デーの開催、図書室及び読書指導のトレーニング、保護者・教師の会など、読書の推進や祝福を目的とした様々なイベントや活動を実施しています。

ニヴリタ・ダーグヴァンシ(南アジア 識字教育プログラムマネジャー)

コミュニティが多言語で構成されているインドでは、多くの子ども達が、授業で使われる言語をあまり理解しないまま小学校に入学します。家庭で話されている言語は、教室やカリキュラムの中では使われていないため、子ども達は教師の話を理解するのが難しい状況にあります。このような経験全体が、識字能力を身につけるための障壁となり、しばしば子ども達が学校を中退する理由となってしまうのです。2019年のユネスコの報告書(英語)によると、「地域における主要言語を話さない生徒は、学校を中退したり、全く学習しないまま退学したりするリスクが高い」としています。 

そこでルーム・トゥ・リードは、ラージャスターン州のシロヒ地区の100校で、少数民族の子ども達のためのプログラムを開始しました。これらの学校では、学校言語はヒンディー語で、生徒はアディバシ語、ガラシヤ語、マルワディ語を話します。このプログラムは、教師と生徒が一緒になって、子ども達の母語から学校で使用する言語へとスムーズに移行できるよう、協力的でインタラクティブな空間を作ることを目的としています。

このプログラムの重要な戦略の一つは、子ども達の言語で書かれた内容が明確な物語の本を提供し、言語ギャップを埋めるためのリソースとしてこれらの本を使用できるよう教師を訓練することです。最初の段階では、教師は現地語の本を使って生徒の母語で読み聞かせを行い、生徒が母語で考えやアイデアを表現するように促します。同じ本を使いながら、教師は徐々に生徒が使用する言語と学校で使用する言語の2つの言語を使うようになり、子ども達が学校で使用する言語で物語を理解できるようになります。最終的に、教師は生徒が学校で使用する言語を学ぶのを助けるために、学校言語の使用を徐々に増やしていきます。教室に少数民族の言語で書かれた本があることは、子ども達の学習をサポートするだけでなく、学習空間において長い間無視されてきた、子ども達の言語的・社会的アイデンティティを認めることになります。

「1年生の子ども達のほとんどはヒンディー語を理解しておらず、無反応なことが多いです。アディバシ・ガラシヤ語で物語を読み、子ども達に母語で話してもらうと、すぐに生徒達の表情が変わったのが分かりました」
ーインド・ラジャスタン州シロヒ地区でのフォローアップ研修での教師より


タイタス・カズング(アフリカ 識字教育プログラム アソシエイトディレクター)

少数民族の言語コミュニティは、全般として無数の課題にさらされてきました。歴史的な不公平、人権侵害、資源不足などです。一般的に、教育の機会は少なく、絵本などの教育・学習教材は、少数民族の言語話者にとっては馴染みのない言語で書かれていることが多いのです。

ルーム・トゥ・リードは、少数民族の言語コミュニティのために本を開発することで、人権問題に取り組んでいます。生徒の母語で本を提供することで、多様性と包括性、そして社会正義の問題に取り組んでいます。子ども達は、本の中で自分自身や自分の物語を見ることで、自身のアイデンティティを肯定されたように感じ、前向きな自己イメージや展望を持つことができるからです。本により、少数民族の言語を話す人達の言語、文化、生活が尊重され、大切にされていることを生徒達に伝えることができます。

多くの先住民族の言語が存亡の危機に瀕している今、少数民族の言語で子ども向けの本を書くことは非常に重要です。これらの言語で子ども向けの絵本を作ることで、若者は母語の読み書きや会話を学ぶことができ、その結果、言語や文化、伝統的な先住民族の知識を守ることができるのです。したがって、少数民族の言語で書かれた本は、フィクションの物語だけではなく、関連する事実に基づくノンフィクションのテキストの出版を通じて、文化的知識を慎重に記録することが必要です。

(翻訳ボランティア:藤山普美江)